2002年5月23日。突如人類の目前に現れたエイリアンによる侵略は、人々の平和な日常の営みを一変させた。各国 の軍隊の必死の抵抗もむなしく、地球上の主要な大都市のほとんどはこのエイリアンの攻撃によって破壊しつくされ、半年あまりの間に数千万人もの人々の尊い命が失われたのだった。
確かにこの恐るべきエイリアン、Rikitiの侵略はその身を挺したヒーロー達の決死の戦いによってかろうじて撃退することはできた。だが、その残した傷跡はあまりに深く、いまだ癒されることはない。
Rikti戦争終結後、人類はこの恐るべきエイリアンの残した技術を解析し、自らのものとする一方、彼らがどこから、そして何のために地球に来たのか、その正体と侵略目的を探ろうと試みてきた。
だが長年にわたる調査にもかかわらず、彼らの母星の位置もその目的もいまだ謎のベールにつつまれたままだった。
その日ブリックスタウンのコンタクト、 スチーブン・シェリダン(Steven Sheldan) から彼女が受けた依頼は緊急性こそあれ、巨大犯罪がはびこるここParagon Cityにおいては些細な事件だった。
スチーブンによるとブリックスタウン・メディカルセンターに賊が侵入し、貯蔵庫にあった輸血用血液を強奪して逃走したというのだ。病院では輸血用血液の不足により患者の治療に障害をきたしており、賊をおって血液を取り戻してほしいという。
「で、賊の行方について何か情報はあるの?」Lalaの質問にスチーブンが答えた。
「どうやら奴らはダストシュートを通って病院内に進入したらしい。このダストシュートの先は地下下水道だ。ということは、恐らくすぐに追跡すればまだ地下下水道の中にいる賊を捕らえられる可能性は高い」
「なるほど、わかった。さっそく下水道へ行ってみるわ」
第二の事件が起こったのはしばらく後のことだった。
再びスチーブンの元を訪れた彼女は、クレイとRiktiにかかわるある噂を耳にしたのだ。
「Lala、信じがたいことだが、噂によると数日前にクレイがRiktiの研究施設のひとつを譲り受けたらしい」
「クレイがエイリアンと手を組んだっていうの?そんな、それって人類に対する裏切り行為じゃないの!」
スチーブンの情報に憤慨するLala。だが Paragon City屈指の大企業クレイ・インダストリーは、アンダーグラウンドでは最新の科学技術を手に入れるためならどんなことでもすると噂されていた。クレイならRiktiの技術を手に入れるために、悪魔に魂を売ってRikitiと手を結ぶことも十分にありえる話だ。
「もちろんクレイは公式にはこれを否定しているさ。だが私の直感では真実である可能性が高いと思っている。噂によると問題の研究施設はCrey’s Follyの秘密研究所のひとつとのことだ。
クレイの奴らの正体を暴くことはもちろんだが、Riktiが何を企んでいるのかも重要だ。Lala、すぐ問題の秘密研究所を調べるんだ」
そしてヒーローがたどり着いたFolly of Creyの朽ち果てた工場跡のひとつ。一見して廃屋と思しきその工場のきしんだドアを開けると、そこに広がっていたのはハイテクの粋を尽くした巨大な研究施設だった。
中に入ったヒーローは、次の瞬間目前に広がっていた光景に息を呑んだ。彼女の目に入ったのは巨大な研究施設の傍らでクレイのセキュリティとRiktiが談笑している姿だったのだ!
「噂は本当だったんだ。人類を滅ぼそうとしたエイリアンと手を組もうなんて、クレイの奴ら、どこまで見下げた連中なの!」
怒りが爆発したヒーローがクレイのセキュリティとRiktiに襲い掛かった。思わぬヒーローの強襲にうろたえるセキュリティ。
「こちらブラボー・チーム。き、救援を!(Bravo Team here, we need some back up!)うわあっ、と、トラブル発生(!Uh oh more Trouble!)」
無線機の先でPatrol Guardの声が聞こえる。
「何が起こった?ブラボーチーム(What’s Happen to BravoTeam )」だが彼らが事態を理解したときには既に遅かった。入り口のセキュリティをあっというまに倒した怒り心頭のヒーローが眼前に立っていたのだから。
「うわあっ、と、トラブル発生・・・・・(!Uh oh more Trouble!)」
セキュリティとRiktiを倒しつつ、彼らの研究の手がかりを見つけようと研究施設を調べたLalaが発見したのは、以前下水道で見たのと同じ、低温保存用ボックスだった。
「もしかして、また血液だったりして?」そう思って扉を開けた彼女の目に入ってきたのは・・・「! し、心臓・・・これって人間の心臓じゃないの!!」
それだけではなかった。別のボックスからは人間の肺が、また別のボックスからは肝臓が、そしてRiktiによって殺害されたと思しき人間の臓器の各部が次々と見つかったのだった。
スプラッタ映画のような光景に一瞬身を震わせたヒーローだったが、これが猟奇的な殺人によるものではなく、何らかの実験、それもRiktiによる、ものであることは、最後に見つかった人体に関する詳細な分析データーから明らかだった。
それにしてもRiktiは何のために人間をばらばらにして調べ、一体何を企んでいたというのだろうか?
「クレイが問題の秘密研究所にいたことを認めたよ。最も奴らはクレイ社のParagon ProtectorがRiktiの研究所を発見したので、Riktiを一掃して占拠したんだと言ってるがね。まったくお約束の言い訳ってやつだな」
秘密研究所から帰還したヒーローを待っていたのは、クレイインダストリー社の声明だった。恐らく当の昔にRikitiとの関係についての証拠は隠滅され、
Riktiの施設を破壊した英雄的なクレイのセキュリティについての証拠が捏造されているのだろう。相変わらず手回しのいい連中だ。
「それにしてもRikitとクレイは人間の臓器のデーターをあつめていたとはな。どうも背後には巨大な陰謀が隠されているような気がしてならん」
ヒーローの報告を受けたスチーブンがひとしきり考えるといった。
「Riktiによる先日の血液泥棒と今回の臓器の件は決して無関係ではないはずだ。そこから推測できる事はただひとつしかない。そう、奴らが人間をミュータント化する突然変異原の改良実験を行っているのではないか、ということだ。」
Lalaは今までのミッションを通じて、Rikitiが化学的に突然変異を引き起こす物質を使って、人間をLostと呼ぶミュータントに変えていること、
そしてLostはその化学物質なくして生きることができず、それゆえにRiktiから生物兵器として使役されていることをつかんでいた。
「じゃあ、Riktiは更に多くの人間をLostにするために、その突然変異原を改良しようとしているのかしら。もしそうなら早く奴等の企みを阻止しないと!」
「そのとおりだLala。実は奴等の突然変異原についての研究の結果、それらはバジリウム(Barizium)と呼ばれる化学物質を大量に使用しているこ
とがわかっている。現在 私が知る限りParagon
Cityで大量のバジリウムを貯蔵しているのはインディペンデンスポートのフォーズ・ヴォーン化学(Fors
Vorn)の倉庫だけだ。倉庫を守り、Riktiがバジリウムを強奪するのを防ぐんだ」
スチーブンの言葉に早速フォーズ・ヴォーン化学のバリジウム倉庫に急行したヒーローだったが、倉庫の扉を開けた彼女は眼前に広がる全く想像外の光景に一瞬声を失った。
なんとなればその古びた倉庫にあったのは守るべきバリジウムなどではなく、5th Columnの秘密基地だったのだから。
どうやらフォーズ・ヴォーン化学はバリジウムを扱う化学薬品会社というのは表向きの顔で、実際には5th Columnのフロント企業だったらしいのだ。
こういうときには正直ヒーローとしては対応に困る。彼女の追うRiktiとは関係ないのだが、だからといって他の悪を見過ごすわけもいかないのだから。
結局この哀れな5th Columnのフロント企業は行きがけの駄賃にヒーローに一掃される羽目になったのだった。
ヒーローが5th Columnのフロント企業で時間をつぶしている間、実は第3の事件がおこっていたのだ。ヒーローが戻ってくるなり、彼女の帰りを待ちわびていたスチーブンが堰を切ったように話し始めた。
「Lala、君をあの倉庫に向かわせたのは失敗だった。君が5thのフロント企業に行っている間、Riktiが著名な外科医で臓器移植の権威であるドクター・サミュエル・スナイダー(Dr. Samuel Snider)を病院の手術室から誘拐したのだ! 」
「なんですって! で、ドクターは今どこに?」
「それなんだが、実は彼は誘拐されたときポケットベルを身につけていた。そこで、この信号探知機を準備した。これをつかえば彼のポケットベルの信号をトレースして彼の行く先へ導いてくれるはずだ。手をくれるになる前にドクターを救ってくれ、Lala!」
彼女が手渡された信号探知機はドクターのポケットベルの電波を感知する一方、Paragon Cityの他の2つの信号検出器と通信するように作られていた。それによって3点測量の原理で今どこにドクターがいるかわかる仕組みになっているのだ。
そして今、装置の示している先はFaunder’s Fallの地下下水道だった。
「なんてことだ。下水道にはドクターの姿はなく、ポケットベルがあっただけなんて。」
ヒーローからことの次第を聞いたスチーブンが頭を抱えて言った。これでドクターの消息を知る事はもはや不可能になってしまったのだろうか。
「間違いなくRiktiは盗んだ人間の内臓や血液を使って、ドクターに何らかの手術をさせるつもりだ。それが何かはわからないが、何が何でも彼の消息を突き止め、奴等の計画を阻止しなければならん。Lala、私の友人のマービン・ワイントラウブ(Marvin
Weintraub)に会いに行ってくれ。奴の科学技術なら何とかしてくれるかもしれん」
「科学技術でなんとかするって、一体どうするっていうの?」
「それは奴に会えばわかるはずだ。頼んだぞLala」
当惑しつつタロス島のマービンの元に向かったLalaの前に立っていたのはスキンヘッドのいかにも怪しげな科学者だった。彼はスチーブンと共にRiktiとその科学技術について研究しており、ああ見えてもその道の第一人者らしい。
「なるほど、スチーブン・シェリダンの奴が君を送ってきたわけだね? いいだろう。ここは私のサイキック・プローブの出番というわけだ」
「サイキック・プローブ?」
「こいつはRiktiの心を読み取れることのできる代物だ。もっともそれは弱った敵に限られるがね。つまり君がしなければならないのは、ドクター・スナイダーについての思考を読み取れるまで十分な数のRikitiを倒す、ということだ」
「へー、Rikitiの心を読み取れるなんてすごいじゃない。」
「まあ、それほどでもないがな」そういうとマービンはスキンヘッドに手をあて、少し照れて見せた。
早速大量のRikitiが出没するFolly of Creyでこの装置を使ったLalaだったが、なかなかドクターの行方を知っているRiktiにめぐり合えなかった。
だが彼女が35番目のRiktiを倒 しプローブで心をスキャンしたとき、急にプローブからビーッという音が鳴り響いたのだ。 どうやらこのRiktiがドクターの行方を知っているらしい。そして間もなくドクターの居場所はブリックスタウンのある倉庫である可能性が高いと判明した
のだ。
無事でよかったドクター。奴らに乱暴とかされなかった?」
「それなんだが、聞いてくれCutie Lala。実は私は奴等の最も屈強な兵士の臓器移植をするように強要されていたんだ。で実際に私が奴等の臓器を取り出した時、それらは萎れてひどい状態にあった。それで私は、新しい臓器、恐らく他の倒れたRiktiの兵士のものだろうが・・・を新しく移植するよう指示されたわけなんだ」
「病気かなんかだったのかな? そのRikti。でもRiktiってすごい技術をもってるわけでしょ。
なんで人間の手を借りてまで臓器移植なんてしなければならなかったのかしら?」
「私達は数ヶ月もの間Riktiについて研究を続けてきたわ。
そして今こそ私はあなたにSERAPHが掴んだ真実をすべてをお話することにします。Lala、あなたに本当に真実を知る覚悟があるかしら?」
レベッカが、その覚悟を強いるかのような鋭い眼光で彼女を見据え、ゆっくりとした口調で話し始めた。黙ってうなずくCutie Lala。
「単刀直入にいうわ。Riktiは・・・奴等は・・・エイリアンなんかじゃない。彼らは人間なのよ!そう私達と同じ人類だったのよ!」
「!」
「生物学的なあらゆるデーターが、彼らが人間であることを示していたわ。つまり彼らは異星人なんかじゃなかった。Riktiはパラレルワールドの地球から来たミューテーションした人類だったの」
「・・・・・・・・」
「Lala?」
「うそ・・・だよね。だって・・・Rikitiは悪いエイリアンだってみんな言ってたじゃない。それが私達と同じ人間だなんて・・・冗談だよね、ねえ!そういってよレベッカ!!」
「ドクターによれば戦いをつんだ屈強なRiktiほど内臓の疾患が激しかった。そして確かにその内臓の疾患のためか奴等は以前ほど頻繁に我々の前に姿を現していない。
この事実はレベッカが君に話したことと関係があると思わないか?
真実を知った今、もう一度Riktiの臓器窃盗を追ってみる必要があると思う。」
レベッカの元からもどったLalaにスチーブンが言った。
そうだ。そもそもの始まりとなった臓器窃盗事件の先にこそ、きっとRiktiの真実が隠されているに違いないのだ。
だが、手がかりひとつない今どうやって臓器窃盗事件の真相を確かめたらいいというのだろう。
「忘れたのかい。サイキック・プローブのことを」そういって微笑するスチーブン。
「あっ、そっか!また片っ端からRiktiを倒して、あの機械で臓器窃盗事件のことを知ってるRiktiを探せばいいんだ!」
かくて再びFolly of Creyに向かうヒーロー。今度はさすがに更に多くのRiktiを倒さなければならなかったが、遂に45人目のRiktiでプローブに反応が現れた。
そしてプローブが読み取ったRiktiの思考の中身こそ、まさしくRikitiの臓器移植に関する秘密研究所の場所だったのだ。
プローブに導かれた場所はFolly of Creyの一角の廃工場と思しき一角、しかし其の実態はまさしくRiktiの秘密臓器研究所だった。
研究所の内部には人間の臓器と内臓疾病により萎縮した Riktiの臓器が入れられたガラス槽が林立していたが、Riktiを倒しつつ研究所の奥へと進んだヒーローの目は、ある一つのガラス槽に釘付けになった。
それはボトルに入った突然変異体とその作用によってRiktiの内臓に変貌を遂げる途中の人間の臓器だった。Rikitiはやはり人間がミューテーションした姿だったのだ。
ほどなくしてヒーローの手によってRiktiの研究所は破壊され、彼らのおぞましい臓器移植の企みはその終わりを告げた。
だが、Lalaの心にはいまだ解けぬわだかまりが残っていた。
ことは単に内臓疾患のRiktiのために、ミューテーションさせた人間の臓器で代用しただけのことだったのだろうか?
そしてCutie Lalaがこれから始まる物語の中で、謎のベールに覆い隠された真実の一端を垣間見ることになろうとは、もちろんこの時点では彼女は想像だにしなかったのである。
ブリックスタウンの巨大な地下下水道網。病院のダストシュートが通じていると思われるポイントに降りたLalaが見つけたのは大きな低温保存ボックスにはいった保存用血液パックだった。恐らくこれが盗まれた血液なのだろう。
だが彼女が血液パックを手に取ろうとしたとき、不意に背後に人の気配を感じて、おもわず振り返った。そして次の瞬間その視界に現れたのは、人の身の丈ほども大きさもある巨大なブレードを振りかざした異形の生物・・・Riktiだったのだ。
「Rikti! どうしてこんなところに」驚くヒーローを尻目に次々とヒーローに襲い掛かるエイリアン。状況から見て彼らが血液バックを強奪した犯人であるのは明らかだった。
「一体どうしてエイリアンが人間の血液なんかを欲しがったのかしら?」戦いの末Riktiを倒しすべての血液パックを回収したヒーローは、軽い疑問に感じつつ薄暗い下水道を後にしたのだった。
だがRiktiを倒しつつ地下下水道にドクターを探したヒーローは、下水道の一角でおもわわず足を止め天を仰いだ。そこにあったのは、ドクター・スナイ
ダーのものと思われるポケットベルだったのだ。恐らくRiktiに誘拐された後、下水道につれてこられたドクターはここでポケットベルを落としてしまった
のに違いない。
かくてドクターの消息を追うヒーローとドクターを結ぶ線は、ここでぷっつりと途絶えてしまったのだった。
そうとわかれば後は早かった。
問題の倉庫の扉を蹴破り中に入ったヒーローを幾多のRiktiが迎えたものの彼女の敵ではなく、ヒーローが無事スナイダー博士を救出することに成功したのは、ほんの数十分後のことだったのだ。
取り乱した彼女をなだめるように冷静な口調でレベッカが続けた。
「あなたの気持ちは分かるわ、Lala。もしこのことが知られるようになったとしたら、きっとみんなあなたと同じようにパニックを引き起こすでしょうね。
でも分からないのはRiktiの方でそれを知っているかどうかだわ。もし彼らがこの事実を知っているのなら、多分そのアドバンテージを最大限使おうとする
はずよ」
「もしかしてRiktiが人間の臓器を狙ったのって、それを知ってて!?」
レベッカの言葉に落ち着きを取り戻したLalaが小さく呟いた。